金融業界の「ポリコレ」は信用できるのか!

昨今、「ポリコレ」(ポリティカル・コレクトネス:差別、偏見のない政治的に正しい言葉遣い)の問題や「各種ハラスメント」などが、世間で騒がれることが多くなりました。

もちろん、「マイノリティ」の方に対して配慮することは、大切なことですが、昨今の風潮はやや過剰とも思えるむきもあります。

そのため、これらの方々に対して言葉遣いや対応を間違えることは、企業にとっても、大きなダメージを被ることになりかねません。

これは金融業界でも例外ではありません。

さて、先日、知り合いの金融会社の人からこんな話を聞きました。

どうやら、彼の勤務する会社に、聴覚障害と言語障害をもった、「ろうあ者」の方から、融資の申込みがネット経由であったようで、その人に融資するかしないかで、社内でも意見が分かれたということでした。

すなわち、「障害者を差別せずに融資すべき」と主張する人と、「何かとトラブルが生じやすいのでやめておいた方がいい」という人に分かれたということです。

一見、前者の意見がもっともらしいのですが、実際に融資を行うまでのハードルはかなりあります。

最終的な審査結果がどうなったかの報告は、ここでは、差し控えさせてもらいますが、かなり微妙なジャッジであったと思われます。

ライターから一言
正直、こういう問題は、なかなか建前のことしか発言出来ない雰囲気があって、誰も突っ込んだ本音を言えないんだ。

 

【障害者融資の判断が難しい理由】

軽度の障害であれば、多くの金融会社は、先進的な対応をしていますし、貸出し実績も多くあります。

しかし、障害の度合いによっては、実際に融資を行うまでには、かなりハードルがあることも事実です。
例えば、

・本人確認はどうするのか
・契約の意志は確認出来るのか
・契約説明はどうするのか
・延滞時の対応はどうするのか

などの問題もあります。

そもそも、本当にその方自身が申込みをしてきているのか、なりすましではないかという問題もあります。

また、障害者の中には、障害の等級はともかく、中には、家族や介護者のサポートがなくては、本来のコミュニケーションが困難な方もいます。

そのような状態にある人に融資をすれば、家族や介護者らとトラブルになる可能性もあります。

このように、障害者に対しては、ただ、融資をすれば良いというものではなく、適切に契約が締結できる状態かどうかを見極める必要があります。

しかし、そうしたとて、後から、「適切に契約出来るような状態でない者に、むりやり契約させた」とも言われかねないというリスクは、どうしてもあります。

 

【建前論でしかない金融庁の指導】

金融業の障害者への対応については、「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成 28 年告示第3号 )に具体的な取扱いが示されています。

ものすごく簡単にまとめると、「不当な差別とならないよう、業者は、配慮、努力して、単に障害を理由として拒否するようなことはいけない」という趣旨の、ごく当たり前の体裁しか書かれていません。
実際の現場ではあまり参考にはならないように思います。

また、金融庁の指導には、「障害者の家族や介助者等のコミュニ ケーションを支援する者がいる場合は、支援者を通じて本人に契約内容を理解してもらう等、顧客に契約内容を理解してもらうための努力が必要」などの説明もあります。

しかし、介護者を通してしか意志疎通が取れない方に、消費者金融がお金を貸すことは、通常、考えられません。
介護者への名義貸しになりかねないので、現実的には、なかなか困難でしょう。

金融庁などの行政は、いわゆる「ポリコレ的指導」しか出来ないので、実際の現場感覚とは乖離していることも多々あります。

 

【差別、偏見の完全撤廃は出来るか】

貸金業は、「貸し過ぎ」が問題視されることはあっても、「貸さなかったこと」が問題視されることはまずありません。

消費者金融、銀行カードローンなど、「過剰融資(貸し過ぎ)」はすぐに問題視され、行政の監査でも指導されることがあります。
しかし、「もっとこの人にお金を貸しなさい」といった指導は聞いたことがありません。

貸金業に対しては、世間でも「貸さない親切」という考え方もあるくらいです。

マイノリティの方に配慮すれば、通常よりもコストはかかりますし、前述したように、トラブルも生じやすくなります。

そこまでして融資しなくても、割り切って、否決にしてしまった方が合理的なのは事実です。

融資を断る理由もいくらでもこじつけることができますし、実際の現場では、差別や偏見を完全に撤廃することは、まだまだ、難しいかもしれません。

完全な撤廃を目指すのであれば、一定数の貸出しを「マイノリティ」に割り当てするような、クオーター制を導入するくらいの極端なことをしないと難しいのかもしれません。

関連記事:キャッシング業界のタブーに挑戦

投稿者プロフィール

MiyakeSeiya
MiyakeSeiya編集者・ライター
主にサイトの編集を担当するが、記事の執筆も行う。某銀行に勤務していたが脱サラ。金融関連の出版社との馴染みが深く、金融業界の知識も豊富。

ご質問がありましたらお気軽にどうぞ。コメントもお待ちしております。

(質問の回答にはお時間をいただく場合がございます。)